急募!ベリーの若様が花嫁を御所望です!
(こんな男に引っかかって…恋も結婚も諦めた挙句…その男に、今度は身勝手で理不尽な理由で殺されるなんて。
そんなのは嫌!
私も幸せになりたい!
それ以上にあの人を幸せにしてあげたい!
私も…一人の相手を…心から愛し…大事にして…病めるときも…健やかなるときも…相手が死ぬまでの人生全部を預かって…守り続けていく覚悟をもって…あの人と…ずっとずっと一緒に生きていきたい!
こんな理不尽に負けてたまるか!)
そんな風に色々な事を考え思ったのも、たぶん…全てがほんの一瞬の間のことだった。
失神しかかって無抵抗だった亜里砂が、最後の足掻きで…いきなり手を思い切り振り回したのだ。
ガッ!
力尽きていた亜里砂にすっかり油断していたのだろうか…。
振り回したその手が偶然池澤の鼻先に見事に当たりグシャリと何かが潰れるような音がした。
池澤の「ゔッ!」という呻き声とともに、首を締める手がいきなりするっと解ける!
「がっ!はっ!ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!」
急に、痛い程の勢いで喉にどっと流れ込んできた空気に、亜里砂は咳き込み喘いだ。
(苦しいけど…とにかく逃げなきゃ…早く!)
回らない頭で、咳き込みながらもヨロヨロと立ち上がり、階段を這うようにして上がる。
ヒールが脱げてどこかに転がってしまい、ストッキングのままなので滑るのと、どうにもならない震えと焦りとで全く思うように体が動かない。
それでもどうにかこうにかあと少しで非常扉に辿り着くという時…。
二年前のあの日のように…鼻血を流して顔を赤く染めながら、同じく這うようにして階段を上ってきた池澤に、縋るように足首を掴まれて強く引っ張られた。
ガツンッ!
「くっ!」
膝を階段にしこたま打ちつけてしまい、すでに満身創痍の亜里砂から、声にならない悲鳴が漏れる。ついた手にも激痛が走る。
(わかさま!たすけて!)
「かはっ…!」
大声で叫びたいのに!首を強く締められた時に声帯を痛めたのか、声が全く出ない。
息をするのがやっとだ。
(もう…これは本当にダメかも…)
ガッ!
池澤に捕まり、強引に仰向けにされ…再び馬乗りになられ…今度は平手ではなく拳で頬を殴られ、亜里砂の瞳から光が消えかける。
再び池澤が拳を振り上げたのを、絶望的な気持ちになり、霞む目で見上げたその時…。