急募!ベリーの若様が花嫁を御所望です!

「指の骨が折れてしまっているんだ。お前、あいつの鼻を手で思い切り殴ったんだろう…」

(ああ…あの時に折れちゃったのね…。そういえば、ぐしゃりと変な音がした気がする。あまりにも苦しくて痛みさえ感じられなかった…)


「色々とタイミングが悪くて気づくのが遅れたし…エレベーターがメンテ中だったりで…すぐに駆けつけてやれず本当にすまなかった。体中、打身や擦り傷でボロボロとはいえ…俺たちが駆けつけるまで、諦めずによく頑張ったな」

亜里砂が伸ばした手を、大也は骨折している指を庇いながら、凛々しい眉を少しだけ下げて優しく握って笑う。

(まさか!エレベーターが使えず、六十階から八階まで階段を駆け降りて助けに来てくれたの?)

「あ……ぅ…ぅ」

(違うの…謝ったりしないで!諦めかけていた私を…あの時、励ましてくれたのは若様だったの。ありがとうって、ちゃんと貴方に言いたいのに!)

声が出ないのがもどかしい。
だが、「ありがとう」という唇の動きだけで察したのだろう。
大也は頷きながら微笑んで、また優しく何度も亜里砂の頭を撫でた。

大也が側にいることによる安心感と、その手で優しく撫でられていることによる多幸感が胸に溢れる。

(やっぱり好き。『たぶん』なんかじゃない。私は本当にこの人のことが好きなんだ。もう誤魔化さないって決めたの。だって私、今、生きてるんだから。すぐにでも『好き』って言いたい!
なのにこんな時に限って声が出ないなんて!)

亜里砂の眉尻が下がり、また涙がポロリと溢れた。


「亜里砂さんっ!ごめんなさい!」

足元で北柴がいきなり悲痛な声をあげたのでそちらに目をやる。

「俺が!俺のせいです!忘れ物なんかして亜里砂さんを一人にしてしまったからこんなことになってしまって!社長に亜里砂さんを暫く一人にするなって言われてたのに!本当にすみませんでした!」

「い…ぃ…っ」

顔をくしゃくしゃにして泣きながら謝る北柴に「いいの、あなたのせいじゃない。気にしないで」と言ってやりたいのにうまく話すことができない。
ならばと首を横に振ろうとして、また痛みに顔を顰める。

「あーちゃん、ダメよ。暫くは動けないわ。柴ケンも、貴方のせいじゃないからもう気にするなって何度も言ったでしょう」

「うぅ…」

亜里砂が痛みを堪えて小さく頷く。


美幸が、亜里砂の頭を撫で続けている大也の手を「もうそろそろ良いでしょ、代わって下さい!」と邪険に払い、今度は自分が撫で始めた。

大也がチッと舌打ちをする。

美幸の隣で環が「そんな風にお二人で順繰りにずっと撫でてたら、亜里砂ちゃん禿げちゃいますよ」と小声で突っ込んでいる。


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