急募!ベリーの若様が花嫁を御所望です!

「二年前も酷かったけど…あの男…またあーちゃんにこんな惨いことして…。顔だけじゃないわ。そこらじゅうアザだらけで!そのうえ首を絞めるなんてことっ!よくもできたものだわっ!
絶対に許せない!今度こそ私が自分の手でボコボコにしてやりたかったのにッ!」

般若の如き美幸の瞳に再び涙が浮かんだ。

(あ…そういえば池澤は⁉︎どうなったの…?)

「い…ぇ…ぁ…ぁ…」

口の動きでまた察したのか、大也が眉を寄せ、美幸と目を見交わし、少しだけ逡巡する素振りを見せたが、やがて心を決めたように言った。

「池澤公平は……あの後、警備員に取り押さえられて警察に引き渡されたんだが…。警察署で…ほんのわずかの隙に、どこかに隠し持っていた毒物を飲んだそうだ」

「!!」

「すぐに病院に運ばれて一命は取り留めたと連絡があったが…今も意識は無いらしい。
亜里砂を手にかけた後、自分も死ぬつもりで持っていたんだろう」

「…は……っ!」

(馬鹿なひと!どうしてそんなことを!)

亜里砂の瞳からポロポロと涙が溢れた。
あんなにひどい目に遭わされたというのに、どういうわけか池澤を恨む気持ちには全くなれない。
ただ池澤が憐れで…悲しく思う気持ちの方が強かった。

亜里砂は池澤が輝いていた頃を知っている。
どうしてこんな風になってしまったんだろう。
たとえ三吉涼香という女性に人生を狂わされたのだとしても、いつまでも亜里砂に拘らなければ、もっと、もっと今と違う生き方をすることが出来ただろうに…。


「ああ、本当に馬鹿な男だ。でも同情なんて一切するなよ。今回はすんでのところで助けられたからいいようなものの…考えたくもないが、もしも間に合わず、あの時取り返しのつかないことになって、亜里砂を失うことになってしまっていたら…。
俺はあの男を毒なんかで楽に死なせてはやらない。
一生苦しめて…苦しめて…苦しめた挙句、俺がこの手で八つ裂きにしてやっていたことだろう」

(若様…)

亜里砂は、眉根を寄せて怒気を露わにする大也の手を握って、痛みを堪え首を小さく横に振った。

(私は生きてるから。若様にそんな事をさせずに済んで良かった…。生きてて本当に良かった)

「ゎ…か…」

「あいつのことはもう忘れろ。あの男はもう二度とお前の前に現れることはない。あいつは生涯、一護の監視下に置くことに決めた。たとえあいつが意識を取り戻し、法の裁きを受け罪を償い、再びお前に会うことを望んだとしても、俺が絶対に許さない」

(そうね…彼のことはもう忘れなければ…。私も、若様にせっかく助けてもらった命…過去に囚われず、前を向いてちゃんと生きていこう…)

亜里砂は目を閉じて小さく頷いた。


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