急募!ベリーの若様が花嫁を御所望です!

「無論、愛などなくても結婚は出来る。じゃが儂は、孫が未だ知らぬ『愛』というものを、どうしても知って欲しかった。
いつかは自然に知るかと思うて待っておったが…三十を越えても一向に好きな女性が出来るようには見えぬ。
秘書の異母妹に訊けば、相変わらず恋愛に興味無く、仕事も忙しく、最近では面倒臭がり、その取り巻き達さえも遠ざけ付き合ってはおらぬと言う。儂が選び、この女と結婚しろと命令せぬ限りは、多分一生結婚などしないだろう…と言うた…」

金持はふぅと溜息を吐いた。

「儂が結婚相手を見つけ、此奴に結婚しろと言うのは容易い。大也の嫁にと、政界や財界から多くのお嬢さんとの見合い話があったし、儂が言えば、大也は何の迷いも無く命令に従ったじゃろう。
そしてあの夜、亜里砂さんに言うておった通り、形式だけの、妻とは必要な時にたまに顔を合わせるだけの、愛のない名ばかりの結婚生活を、さも当然のことのように送ったのじゃろうて」

大也は気不味そうに鼻の頭を指で掻く。

「確かに…」

「そうじゃろう。だが…儂は、大也の父の時に、結婚を強制して大失敗をしておる身じゃ。その儂が、どうして可愛い孫の結婚にまで口が出せようか。大也まで不幸な結婚をさせるわけにはいかぬ。だから余計な口は出さず静観することにしておった。
しかし…ここにきて儂は、自分の人生の残り時間が僅かなことを知り、大いに焦った。
儂が死ねば、当然大也が『一護』の代表になる。独り身でも勿論暫くは務まろうが、すぐに嫁は必要となるじゃろう。此奴はきっと条件の一番良い相手を適当に周りに選ばせ、愛のない結婚をするに決まっておる。
両親を見ていて、そんな結婚生活は当然のことだと信じて疑わないまま…。
じゃから儂は決めたのじゃ。大也の嫁は、大也自身に選ばせると。
葉山に命じ、わざと切羽詰まった状況に追い込み、周りに手助けさせぬようにした。
そうして大也があの夜連れて来たのが、亜里砂さん、貴女だったのじゃ…」

金持が微笑む。

「正直言ってあまり期待はしておらなんだが…。我が孫ながら、大也は勘が良い。偶然とはいえ、こんな上物を釣り上げるとはな。
まさに僥倖じゃ。
あの夜、ここで貴女が大也の頬を引っ叩いた時…。大也を睨みつけて説教をしておる貴女の姿に、儂は、我々を長々と縛っていた鎖が、音を立てて解けるのを見た気がしたよ。
そして今日ここで…。亜里砂さん、貴女が大也と結婚し、大也と共に幸せになると言うてくれた。一生互いを思い合い、寄り添いあいながら生きていくと誓ってくれた。
大也が選んだのが亜里砂さんで本当に良かった。大也が間違った事をしようとしたら、遠慮なく貴女がまた引っ叩いてやっておくれ。大也の嫁はそんな貴女にしか務まらぬ」

「祖父さん…」
「お祖父様…」

「儂の人生でこんなに嬉しかったことはない。もはや思い残すことなど、何も無い」

「祖父さん、何を言っているんだ。思い残すことなどまだまだあるさ。結婚したらそのうち子ができる。俺と亜里砂の子だぞ。可愛いに決まってるんだ。それを見ずに死ねるわけがないだろう」

「そうですよ。まだまだお祖父様には教えていただかなければならないことが、たくさんありますから」

「ふふ、そうじゃな。大也と亜里砂さんの子か。それはそれは豪胆で優秀で思いやりのある可愛い子が生まれようなぁ。ほんに楽しみじゃて」


金持は、心の底から嬉しそうに笑った。


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