急募!ベリーの若様が花嫁を御所望です!
そうするうちに大也は書き終え、上着の内ポケットから印鑑を取り出すと、葉山が絶妙のタイミングでどこからか朱肉をパッとテーブル上に差し出す。
大也は表情も無く押印し終えると、葉山から渡されたティッシュで印鑑についた朱肉を丁寧に拭ってから、婚姻届をすっと亜里砂の方に寄せた。

「!!」

(美幸さん!どうするの⁉︎どうしよう⁉︎)

でも走って逃げるチャンスは、とっくの昔に逸してしまっている気がする。
三人の視線が集まる中…青い顔をして一向にペンを取ろうとしない亜里砂に、業を煮やしたように大也が言う。

「ほら…さっさと書けよ。書かないといつまでも終わらないぞ…」

(いやっ!書いたら終わりでしょう!)

「わっ…私…っ」

亜里砂は思わず隣の大也を見上げ、縋るように小さく首をふるふると何度も横に振った。
知らずに涙も滲んでいる。

「む…むり…でっ」

「大丈夫だって。ちょっと書くだけだろ」

「できませ…」

「はぁ〜ーーーっ」

大也がとうとう大きな溜息をついたため、亜里砂の細い肩がビクッと跳ねる。
その肩を両手でガシッと掴み、大也は亜里砂をグイッと自分の方に向かせると、正面から冷たい目で見下ろした。

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