私を甘やかして、そして、愛して!
サクサクと無言で前を歩く久実の後ろを
これまたサクサクと無言で歩く翔平は
どうしてこんなことになったのか
あとで自問する日々を送るだろうと
頭の端にメモした。
山頂から2時間はぶっ続けで歩いた。
「秘湯はまだなのか?」
久実は返事をしなかった。
まさか?
「まさか、迷ったとは言わないよな?」
そのまま歩みは止めずに
なにやら手元を見ている彼女の後ろから肩をつかんだ。
「立花?」
二人して立ち止まった。
「先輩、迷いました。」
お互いに目を見合った。
「ったく、見せてみろ。」
小さく折り畳んだ地図を広げた。
それはかなり大ざっばなものだった。
「この辺りにあるはずなんです。」
彼女が指差したバツ印はとうに過ぎている位置だ。
昼から降りてきた山道はこの先の渓谷へ続くのみだ。
「途中には湯気どころか湿った場所もなかっただろ?」
「はい。」
「戻るか?それとももっと下へ。」
待てよ、この谷は川なんじゃないか?
「下へ行ってみよう。」
「はい。」
久実は完全に迷った自分が一人ではないことに
心底安堵していた。
しかも相手は過去に大失恋した先輩だ。
今はただ先輩に頼るしかないと思った。
「マズいぞ。今日中に下山できない。」
「先輩、すみません。私、ちょっと楽観的すぎました。」
「ちょっとどころじゃないだろ?」
「はい。」
てっきり怒られるかと覚悟をしていた久実だが
翔平は冷静だ。
あと3時間で暗くなってくるだろう。
これから全行程を引き返すには遅すぎた。
夜にはまたガスが出る。
朝以上に濃いガスが。
翔平は客観的に今の状況を考えた。
早めに寝場所を確保しないと命を危険にさらすことになる。
「立花。」
「はい。」
「あと1時間下って、テン場と水場を確保だ。」
「はい。」
これまたサクサクと無言で歩く翔平は
どうしてこんなことになったのか
あとで自問する日々を送るだろうと
頭の端にメモした。
山頂から2時間はぶっ続けで歩いた。
「秘湯はまだなのか?」
久実は返事をしなかった。
まさか?
「まさか、迷ったとは言わないよな?」
そのまま歩みは止めずに
なにやら手元を見ている彼女の後ろから肩をつかんだ。
「立花?」
二人して立ち止まった。
「先輩、迷いました。」
お互いに目を見合った。
「ったく、見せてみろ。」
小さく折り畳んだ地図を広げた。
それはかなり大ざっばなものだった。
「この辺りにあるはずなんです。」
彼女が指差したバツ印はとうに過ぎている位置だ。
昼から降りてきた山道はこの先の渓谷へ続くのみだ。
「途中には湯気どころか湿った場所もなかっただろ?」
「はい。」
「戻るか?それとももっと下へ。」
待てよ、この谷は川なんじゃないか?
「下へ行ってみよう。」
「はい。」
久実は完全に迷った自分が一人ではないことに
心底安堵していた。
しかも相手は過去に大失恋した先輩だ。
今はただ先輩に頼るしかないと思った。
「マズいぞ。今日中に下山できない。」
「先輩、すみません。私、ちょっと楽観的すぎました。」
「ちょっとどころじゃないだろ?」
「はい。」
てっきり怒られるかと覚悟をしていた久実だが
翔平は冷静だ。
あと3時間で暗くなってくるだろう。
これから全行程を引き返すには遅すぎた。
夜にはまたガスが出る。
朝以上に濃いガスが。
翔平は客観的に今の状況を考えた。
早めに寝場所を確保しないと命を危険にさらすことになる。
「立花。」
「はい。」
「あと1時間下って、テン場と水場を確保だ。」
「はい。」