私を甘やかして、そして、愛して!
陽が落ちた。

真っ暗だ。

月明りもまったく当てにならないほど森が深い。

ランタンの持ち合わせはなかった。

ヘッドライトの光は懐中電灯より心もとないレベルだ。

二人でテントの前に突っ立ったままだ。

食料もなく何もすることがない朝までの時間は

体力温存に徹することだ。

翔平は久実が憔悴している気持ちのままだとわかっていた。

自分の軽率な行動と比例して口数が少ないのは

どうしてこんなことになったのかと堂々巡りで考えているからだろうと推測した。

「立花。」

「はい。」

「寒さに負けるな。絶対に眠ってはダメだ。」

「はい。」

「少しでも目を閉じたら最後だ。わかった?」

「はい。」

久実は手も足も指がかじかんで

芯から冷えるとはこういうことなのかと他人事のように思った。

二人でテントに入るとかなり窮屈だ。

さらにシュラフといったら

チューブにみっちりと詰め込まれたソーセージ肉のような気分である。

一瞬緊張感が漂ったが

正面を向き合って限界まで身を寄せなければファスナーが弾ける。

「立花、もっと寄ってみて、俺が腕を回すから。」

「は、はい。」

もぞもぞとした動きしかできなくて

この暗闇がありがたかった。

なぜなら久実はこれ以上にないほどの赤面で

寒いはずが顔だけぼおっと火照った自分を心の中で呪った。

「脚もだ。」

翔平に言われるまま久実は両脚を絡ませた。

「少しはいいんじゃないか?」

「はい。」

はいとしか言えない久実は再び心の中で悲しみに耐えた。

本来ならば過去とはいえ恋心を伝えた相手が

こんな近くにいて

非常事態にもかかわらず抱きしめられて

切なくて泣きそうになる衝動をどうにかして抑え込み

意を決して声をかけた。

「先輩。」

「ん?」

「話してもらえませんか?」

「そうだな。」



 ~ to be continued ~


ここまでお読みいただきましてありがとうございます。
後半を更新いたしました。
引き続きお楽しみいただければ幸いです。北原留里留


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