私を甘やかして、そして、愛して!
「先輩、もうお兄さんのことはそっとしておいてあげてください。」
「どうしてそんなことが言えるんだ?」
「先輩があまりにも可哀想だと思うからです。」
「俺が可哀想?」
「そうです。何がなんでもお兄さんを見つけるんだという先輩の気持ちが、返ってお兄さんを遠ざけているような気がして。」
「じゃ、俺はどうしたらいいんだ。」
「何もしないで、探そうとしないでほしいというお兄さんの無言の何かがあるような気がして。」
「現実的でない考え方だな。」
「そうかもしれませんけど、お兄さんの運命はお兄さんのものですし、先輩が変えられるものではないですしね。」
「何気にキツいこというよな。」
「すみません。」
「俺はあきらめたくない。」
「それに、先輩には先輩の人生があるでしょ。お兄さんは自分のことでこれ以上先輩の大切な人生をすり減らしてほしくないと思っているかもしれません。」
「俺の人生ね。たいしたことないよ。少なくとも兄貴より断然普通以下だ。」
「どうしてそんな風に言うんですか?」
「兄貴はすべてに完璧だった。兄貴は常に周りの期待以上の上をいっていた。」
「そうなんですか?それなら先輩以上に可哀想だと思います。」
「どうして?」
「完璧なタイプほど、毎日が苦しいのではないかと思うからです。」
「苦しい?」
「そうです。お兄さんは常に完璧を求められていたから、人生が苦しくなってしまったんです。」
「そんな風には思えない。」
「先輩はそう思えないかもしれませんけど、お兄さんは違ったかもしれません。」
「わからない。俺は兄貴のすべてが知りたい。どうしても割り切れない。」
翔平は兄のことで悩みがつきなかった。
そんな様子をこうして目の当たりにして久実は自分こそが何も力になれない存在だとかみしめた。
「先輩?」
翔平が片方の腕を伸ばしてヘッドライトをつけた。
テント内にぼんやり明るい場所ができた。
「これが兄貴。」
ポケットからパスケースを引っ張り出して中にある古い写真にライトを当てた。
どこかの山頂だとわかる。
「俺が初めて登った山だ。兄貴が連れていってくれた。登頂してすぐ撮ったものだ。」
久実はまじまじと見入った。
ドクンッと心臓の鼓動がはね上がり、次の瞬間ゾッと鳥肌が立った。
「こ、この人です。」
「兄貴を知っているのか?」
翔平が怪訝な顔をした。
一方久実は喉がカラカラに乾き切って
出てもない唾を飲み込み
幽霊でも見たように固まった。
「あの、あの、」
と寒さで声が震えるどころか
背中が変な汗でびっしょりになった。
「立花、おまえ変。」
翔平の言葉が聞こえなかったのか
久実は一度ギュッと目をつぶって現実逃避した。
「おい、寝るな。」
「どうしてそんなことが言えるんだ?」
「先輩があまりにも可哀想だと思うからです。」
「俺が可哀想?」
「そうです。何がなんでもお兄さんを見つけるんだという先輩の気持ちが、返ってお兄さんを遠ざけているような気がして。」
「じゃ、俺はどうしたらいいんだ。」
「何もしないで、探そうとしないでほしいというお兄さんの無言の何かがあるような気がして。」
「現実的でない考え方だな。」
「そうかもしれませんけど、お兄さんの運命はお兄さんのものですし、先輩が変えられるものではないですしね。」
「何気にキツいこというよな。」
「すみません。」
「俺はあきらめたくない。」
「それに、先輩には先輩の人生があるでしょ。お兄さんは自分のことでこれ以上先輩の大切な人生をすり減らしてほしくないと思っているかもしれません。」
「俺の人生ね。たいしたことないよ。少なくとも兄貴より断然普通以下だ。」
「どうしてそんな風に言うんですか?」
「兄貴はすべてに完璧だった。兄貴は常に周りの期待以上の上をいっていた。」
「そうなんですか?それなら先輩以上に可哀想だと思います。」
「どうして?」
「完璧なタイプほど、毎日が苦しいのではないかと思うからです。」
「苦しい?」
「そうです。お兄さんは常に完璧を求められていたから、人生が苦しくなってしまったんです。」
「そんな風には思えない。」
「先輩はそう思えないかもしれませんけど、お兄さんは違ったかもしれません。」
「わからない。俺は兄貴のすべてが知りたい。どうしても割り切れない。」
翔平は兄のことで悩みがつきなかった。
そんな様子をこうして目の当たりにして久実は自分こそが何も力になれない存在だとかみしめた。
「先輩?」
翔平が片方の腕を伸ばしてヘッドライトをつけた。
テント内にぼんやり明るい場所ができた。
「これが兄貴。」
ポケットからパスケースを引っ張り出して中にある古い写真にライトを当てた。
どこかの山頂だとわかる。
「俺が初めて登った山だ。兄貴が連れていってくれた。登頂してすぐ撮ったものだ。」
久実はまじまじと見入った。
ドクンッと心臓の鼓動がはね上がり、次の瞬間ゾッと鳥肌が立った。
「こ、この人です。」
「兄貴を知っているのか?」
翔平が怪訝な顔をした。
一方久実は喉がカラカラに乾き切って
出てもない唾を飲み込み
幽霊でも見たように固まった。
「あの、あの、」
と寒さで声が震えるどころか
背中が変な汗でびっしょりになった。
「立花、おまえ変。」
翔平の言葉が聞こえなかったのか
久実は一度ギュッと目をつぶって現実逃避した。
「おい、寝るな。」