私を甘やかして、そして、愛して!
「こちら森下。テン場発見。どうぞ。」

森下は無線で流した。

「こちら須藤。目視できます。どうぞ。」

新人の酒井は遭難者の発見に興奮していた。

「こちら本部。消防待機。どうぞ。」

入山口では救急車が待機していた。

「男性一名、低体温注視です。どうぞ。」

久実は担架で運ばれる翔平から目を離せなかった。

テントとシュラフは瞬く間に収納されて

二人のザックとともに隊員が担いだ。

「これを少しずつ飲んでください。」

手渡された経口飲料を一口一口飲んだ。

まずいなんて文句は言ってられなかった。

水分が最後の一滴まで余すことなく身体に吸収されていくように感じた。

携帯用のカイロも腰に貼った。

じんわりと温かくなる背中が心地よくて急激に眠気が襲ってくる。

「歩けますか?」と聞かれた。

遭難してたくさんの人に迷惑をかけた手前

これ以上わがままは言えない。

久実は「はい。」と返事をして先を行く担架に続いて歩き出した。

今は翔平とご飯を食べることしか頭になかった。

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