私を甘やかして、そして、愛して!
半年後、連休を使って湖にやって来た。

翔平は久実と並んで静かな湖面を見つめた。

言葉に表せない想いがあった。

「兄さんが求めていたものがここにあった。俺はそう考えた。」

「うん。私もきっとそうだと思う。」

柔らかな風が吹いて湖水がさざめいた。

久実は翔平の兄が自分たちを見守ってくれているかもしれないとも思った。

「さて、行くか。」

「うん。」

前回の遭難時には見つからなかった久実のいう秘湯なるものを

再び探して歩く計画だ。

「調べによると、シーズンによって出現の確率に差があるようだ。」

「そうだったのね。」

「久実。アバウトすぎるその性分はどうにかした方がいい。」

「言われなくてもわかってます。」

「また遭難したくないからな。」

「どんだけ泣かされたか、だもんね。」

「あー、久実の泣きっ面ね。」

「もう。」

「意識飛んで見れなかったな。いつなら見れる?」

「もう。」

「モーモーって、ウシ科?牛?」

「翔平のバカ!」

「そんなに怒るなって、あとで温泉で、な。」

「う~ん。」

「久実ちゃーん。」

「ぷっ、何それ?」

「俺がちゃん付けで呼んだら可笑しいか?」

「とてもイケメンとは思えない。」

「そのイケメン理論は偏っていると思う。」

「またそれ?」

「とにかく、久実は甘え方が薄い。もっと存分に甘えてくれ。」

「例えば?」

「そうだな、二人だけでいる時は常にそばに寄り添う。常に耳元でささやく。常に吐息がかかるほど近くで甘い雰囲気を身にまとう。っていうのはどうだ?」

「無理。」

「なんでだ?俺ならできる。常に久実の肩や背中や腰に手を添えて、常に耳にキスしながら甘くつぶやいて、常に腕に抱ける距離を保てて、常にたっぷり濃く愛せる。」

「普通そこまで言う?」

「言うだろ、俺なら。」

翔平の優しい唇への愛撫に久実も溶けずにはいられなかった。

透き通った湖水に映る二人の甘い影が

風もないのにゆらりゆらりと揺れても誰も気にしなかった。



     ~ 完 ~


ご愛読をいただきましてありがとうございます。
久実と翔平のカラリとしたやり取りと
お互いを想い合う甘い雰囲気を感じていただけたら嬉しいです。
これからもたくさんの恋物語をお届けしたいと思っております。
北原留里留


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