私を甘やかして、そして、愛して!
「おい!」

と突然近くで声がした。

私はびっくりして口を開けたままその場に固まった。

「俺の声、聞こえた?」

サッと振り向いたら男がいた。

今度は目を大きく見開いて

開けすぎて涙がにじんだ。

「せ、先輩?」

「誰?俺のこと知っているのか?」

「高木先輩でしょ?山岳部の。」

「それは大学の時のだ。」

「私です。立花久実。先輩に邪険にされた。」

「はあ?」

「告白して無視されました。」

「山男に女は無用だ。」

「そうです。そう言われました。」

「アッハッハッハ。」

「笑わないでください。私、立ち直れなかったんですから。」

「そりゃ悪かったな。」

「先輩、こんな所で何しているんですか?」

「見りゃわかるだろ。」

彼は完璧なクライマーの装備だ。

「山頂へ行かれますか?」

「いいや。」

「えっ?」

「俺はここに用があるんだ。」

「ここですか?この湖?」

「そ。」

「ここがきれいなのは見ればわかりますけど。」

他に何の用があるというのだろうか。

私には考えつかず不思議に思った。

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