翠玉の監察医 弱者と強者
一般家庭より広めの浴室には、桜木刑事と鑑識の人がすでにいた。浴槽にはお湯がたっぷりと入っている。

「この家の家主である義彦さんは大病院の院長をしていて、毎日一回では疲れが取れないと仕事から帰宅してからもお風呂に入るらしい。それでこの時間にお風呂が沸かしてあったそうだ」

浴槽の中にはまだ小さな体の男の子が服を着たままの状態で浮かんでいた。その顔は恐怖と苦しみに満ちている。

「明らかに溺死ですね……。でもどうして事件性があると判断されたんですか?」

圭介の問いに桜木刑事が「理央くんの体にはたくさんの古傷があったんだ。それと、晴子さんや義彦さんがほのかさんが理央くんを虐待して殺したんだとしか言わなくてな」と言う。

「ほのかさんは何と仰っていたんですか?」

蘭が訊ねると桜木刑事は「ずっと黙り込んでいたよ」と答える。蘭は水に浮かんでいる理央の遺体を見つめる。たったの五歳でこの世を去ることになったのだ。
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