翠玉の監察医 弱者と強者

「とにかく、解剖室に運びましょう」

蘭がそう言い、理央の遺体はビニールシートに包まれる。溺死の場合、肺が膨らんでいる。しかし時間が経てば肺は元に戻ってしまう。早く解剖をしなければならない。

蘭たちが浴室から出ると、「ちょっと待ってください！まだ鑑識の途中です！」と言う声が聞こえてきた。次の瞬間、警察官に押さえられながら男性二人と晴子が姿を見せた。義彦に天良だ。その顔には激しい怒りがある。

「あなたは！」

義彦を指差し、圭介が驚いた顔を見せる。それは以前、圭介に「神楽蘭は人殺しだ」と言って立ち去った男性だったからだ。しかし、義彦は圭介には目もくれず蘭を睨み付けている。

「この悪魔め！！うちに何をしに来たんだ！！」

「解剖をするご遺体を拝見するために参りました。私は法医学研究所の監察医ですので」

蘭は淡々と答えていく。しかし、心の中では過去のことを思い出して表情を崩してしまいそうになっていた。