翠玉の監察医 弱者と強者
ポツリと蘭は呟き、理央の体にあった痣や傷を思い出す。確かに、普通の家で過ごす子どもならばあんなにたくさんの傷はできないだろう。

「でも、近所の人は三国さんの家から泣き声が聞こえてこなかったと言っていましたよ」

マルティンが返し、蘭は理央が亡くなっていた浴室を思い出す。浴室の洗い場には座るための椅子が置かれ、理央が溺死していた浴槽にはプカプカとおもちゃのアヒルが浮かんでいた。

「そういえば、ほのかさんが理央くんがアヒルが大好きだったって言ってましたね」

圭介がそう言い、蘭はもしかしてと死の真実を予想する。しかし、まだ不確かなものだ。

蘭は、エメラルドのブローチをギュッと握り締めた。



その日、仕事を早めに終わらせた蘭は図書館に向かうことにした。調べたいことがあったためだ。

「神楽さん、どうして図書館に行くんですか?」

圭介の問いに蘭は「児童心理学を調べてみようと思ったからです」と答える。

理央はかなりやんちゃな性格で、ジッとしていられない子どもだったらしい。ほのかはそのことで困っていたようで、保育士もよく注意していたと碧子から聞いたのだ。
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