翠玉の監察医 弱者と強者
二 会いたくない人たち
車を走らせること四十分。辺りは豪邸と呼ぶのに相応わしい大きな家が並ぶ住宅街へと入っていった。

「すご……」

隣で圭介が呟く中、蘭は運転しながらこれから向かう家のことで様々なことを考えていた。蘭の触れてほしくない過去を知っている人たちに今から会うのだ。珍しく蘭の心の中は乱れている。

「ここ、ですね……」

三階建ての家の前には、黄色のテープが張られて多くの警察官がいる。蘭はエメラルドのブローチをギュッと握り締め、車から降りた。

「蘭ちゃん、深森くん、来てくれてありがとう」

蘭と圭介の姿を見つけ、黒いスーツを着た桜木刑事がやって来る。蘭は挨拶をした後、「ご遺体はどちらにあるんですか?」と訊ねた。

「ご遺体はまだ浴室にあるよ」

「溺死ということは年配の方ですか?」

浴室で溺死する多くは高齢者だ。圭介が訊ねると、「いや違うよ」と桜木刑事は返す。

「亡くなったのは、この家の五歳の男の子なんだ。名前は三国理央(みくにりお)くん。彼の祖父である義彦(よしひこ)さんが変わり果てた姿になっているのを見つけた」
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