麗しの彼は、妻に恋をする
「あ、そうそう受賞、おめでとうございます。すごいですね」

「ありがとう。個展に泊がついてほっとしたよ。あるとなしとじゃ違うからね」

そもそも銀座の百貨店で個展を開けること自体がすごい。
同じ師匠につきながら、こうも差があることに悲しくなるが、そんなことよりも柚希は彼の才能に、ただ感服するのだった。

ランチプレートを注文し、ひと息ついたところで芳生がしげしげと柚希を見つめた。

「柚希、なんだか雰囲気が変わったな」

「そうですか?」

我が身を見下ろした柚希は、そういえばと気づいた。

――指輪?
左手の薬指を確認したが、指輪はない。ちゃんと外してある。

作陶中はもちろんだが、和葵と一緒じゃない時は、指輪を外しネックレスにして首から下げている。
傷がついたらと思うと気が気じゃないという理由もあるが、いま指輪をしていない理由は結婚を知られたくないからだ。

――となると、服装?
今日身に着けているのは、粘土つきの服でも、雑貨屋のマルちゃんに指摘されたような泥つきの靴でもない。
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