麗しの彼は、妻に恋をする
一台の車が、カフェが面している通りを、赤信号で停まった。


***


――ん、あれは?

視線を止めた夏目は、怪訝そうにメガネのフレームに手をかけた。

横を向くとちょうど正面に見えるカフェの、窓際の席に知った顔が見える。

――桜井、もとい冬木柚希。
向かいの席に座っているのは高崎芳生。絶賛売り出し中の若手陶芸家。

「夏目。あれはなに、どういうこと?」

ハッとして振り返ると、彼は眉間に皺を寄せてカフェを睨んでいる。

同じところを見ていたらしい。

「あ、そういえば彼は柚希さんの兄弟子でしたね」

「そうだよ?」
それがどうしたと言わんばかりだ。

「あさってからですね個展。それでこっちに来ているんでしょう」

「まあそうなんだろうね」

そう答える声は、呆れるほどムッとしている。
これはもう、絵に描いたようなやきもちだ。

「ねぇ夏目。彼の個展のお祝いの花、白い菊に変更しようか。間に合うでしょ」

「なにを言っているんですか。葬式じゃあるまいし」

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