麗しの彼は、妻に恋をする
通りかかった冬木に助けられてマンションまで来たこと。彼にどうしてリクルートスーツを着ているのか聞かれて、家庭の事情を話したこと。

それから彼に、結婚を提案されたこと。

『半年間のお試し結婚だそうです。条件は二つ。週に一度はマンションに来ること。パーティなどで妻同伴が必要な時は応じること。と言われました』

『なるほど。それで、あなたがその話に応じた理由を伺っても?』

『お恥ずかしい話なんですが、お金がほしいんです。私が生きていく分は自分でなんとかするんですが、祖母の生活に不安がないだけの』

『金額的なことについて、話は済んでいるのですか?』

『はい。結納金と生活費を頂けるそうです』

『慰謝料は?』

『と、いいますと?』

『半年後、もし離婚するとなった場合の』

『あ、ああ。いらないです、何も』

素朴な第一印象は、実際に話をしてみても変わらなかった。

よく言えば邪気のない自然体。忌憚なく言うならどーってことない、田舎娘。

< 108 / 182 >

この作品をシェア

pagetop