麗しの彼は、妻に恋をする
どこまでが敷地なのかわからないほど雑然とした庭には、生えたのか植えたのかわからないような雑木がそこかしこで風になびき、雑草のない場所にヨレヨレの軽トラックが一台とまっている。

これで月々の家賃一万円は安いのか高いのか。
本人は喜んでいるらしいので、まぁ妥当というところなのだろう。

車を降りようと視線を落とした夏目は、ぬかるんでいないことにホッとしながら、砂利と土の混じった地面上に降り立った。

「あ、夏目さん」

砂利を踏むタイヤの音に気づいたのだろう、工房から柚希がひょっこりと顔を出した。

服だけでなく、今日は髪にも粘土を付けている。

釉薬やらなんだかわからない色々なものがついたエプロンといい、予想を覆すことのない格好に安心するやら笑ってしまうやら。

「こんにちは」

「遠くまでご苦労さまでした。いま、お茶いれますね」

「いえいえ大丈夫ですよ。途中コンビニで買ってきましたからどうぞ」

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