麗しの彼は、妻に恋をする

パタパタと急ぎ足で来た彼女は、器に盛り付けた梨を縁側に置いた。

「頂き物なんです。すぐそこに梨を作っている農家があって。瑞々しくて美味しいですよ、どうぞ」

「すみません。ありがとうございます」

遠慮なく口にした梨は、サクッとした口当たりで甘く予想以上に美味しかった。

「そういえば柚希さんは、高崎芳生先生とは同門なんですね」

さり気なさを装いつつ、早速本題に入った。

「そうなんですよ。実力にものすごく差があって恥ずかしいんですけどね。芳生さんにはとってもお世話になっていて」
「お世話とは、食事とかですか?」

「ええ」と答えて彼女は少し恥ずかしそうに頬を染めた。

「芳生さんの実家は茨城なので干しイモをよく届けてくれるんですけど、展示会の前になるとそれで生き延びたりして。優しくて素敵な先輩です」

――干しイモ?

罪なほどに、干し芋が似合うだろうな。
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