麗しの彼は、妻に恋をする
イモ姉ちゃんという言葉が脳裏に浮かび、笑い出しそうになるのをグッと堪えた。

「どうかしました?」

「いえ。いま銀座の百貨店で先生の個展が開催されていますよね。先生にはお会いになりました?」

「はい。個展前に一緒にお食事をして、初日に行きました。早速すごい人でビックリです」

その口ぶりには全く悪気がない。
それを見かけた夫が悶絶するほどやきもきしていることなど、想像もしていないのだろう。

今日は水曜日。
和葵と柚希は毎週月曜日に会うことになっているが、今週の月曜日は和葵が出張なので会ってはいない。彼は土曜日に高崎芳生の個展に行き、その足で大阪へと向かった。戻りは金曜になる。

昨日彼と電話で話をした時、『高崎芳生との関係をよくよく聞いてくるように』と言われたのである。

「芳生さんには登り窯でもお世話になっているんですよ」

「ああ。そういえば先生は師匠から工房を受け継いだんでしたね。柚希さんも作品を?」

「ええ、申し訳ないので、少しだけ一緒に焼いてもらっています」

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