麗しの彼は、妻に恋をする
陶器は窯で焼く。通常は電気やガスの窯が使われるが、登り窯とは、傾斜の土地を利用して作られているトンネルのような窯である。大作を焼けるなど利点は数々あるものの、寝ずの番をして薪をくべなければならず、温度を見極めるための熟練の技が必要になる。薪代だけでも数百万という費用がかかるのでおいそれとは手を出せない。

彼女が利用している窯はコンパクトなガス窯だ。
大きな作品を焼くことはできない。壺や花器の大物は、いままでも彼に頼っていたのだろう。

「高崎先生には、ご結婚のことは言っていないのですか?」

「はい。こっちの人には誰にも。みんなびっくりしちゃうでしょうし、それに半年ですからね。結婚を報告したら、半年後離婚した報告もしなくちゃならないし」

照れたように彼女は肩をすくめるが。

――え。
半年後、彼女は離婚する気満々ではないか。

「でも、あくまでお試しですから、半年後そのまま続くことも十分ありえますよね?」

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