麗しの彼は、妻に恋をする
「あはは、ありえませんよ。大丈夫です夏目さん、私は身の程をわきまえていますから」

ケラケラと笑いながらそう言われた夏目は、そうですかと共に笑うしかなかった。

「あはは、またそんな」
――ご主人が聞いたら泣くでしょうねぇ。

『僕たちは途轍もない強力な赤い糸で結ばれているんだよ。柚希が車にビシャッとやられた時、偶然通りかかった時点でもう、運命としか言いようがない』

そう熱く語っていた夫のほうは、別れる気など更々ないというのに、さてどうしたものか。

この温度差や如何に。

「ところで、週末のパーティは大丈夫ですか?」

「はい、もちろん。それが私の使命ですからね。土曜には和葵さんのところに伺います」

「よろしくお願いします」

この訪問でわかったことは、彼女と高崎芳生はごく親しい関係にあること。そして、彼女は半年で離婚するつもりでいること。

どちらも和葵にとって、いい知らせではない。

またひとつ梨を食べながら、夏目は密かなため息をつく。

「しかし暑いですねぇ」

「ええ」

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