麗しの彼は、妻に恋をする
それでも夏は好きだと、明るく笑う彼女は、襟の伸びた変な柄のTシャツを着て、膝が破けたジーンズで縁側に正座をして、肩にかけたタオルで汗を拭く。

無造作に束ねた髪の一筋が白い首筋の汗を吸っている。
それがやけに眩しくて、夏目は慌てたように視線を逸らした。

「夏のどういうところが好きなんですか?」

「ご近所から食材が集まってくるんですよ。これから収穫の秋にかけて野菜に困ることはないんです。ふふふ」

「ああ、この梨みたいに?」

「そうそう。あ、茹でたトウモロコシがありますけど、食べます? 超甘くて美味しいですよぉ」

「はい。いただきます」

立ち上がった彼女から、甘いトウモロコシの香りがした気がした。

――もぎたての、瑞々しい野菜のような女性。

恐らく、高崎芳生も彼女のことが好きなのだろう。それを彼女が気づいていないだけで。

ある意味、鈍感とは無敵だな。

そう思いながら風に揺れる庭木を眺め、夏目はクスッと笑った。
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