麗しの彼は、妻に恋をする
元から太る体質ではないが、ここ数年の貧乏生活のお陰というべきか最近は余分なお肉がない。それを言うわけにもいかず、お上手ですねと笑って誤魔化した。


和葵は待合室でサロンの店長と話をしていた。

店長が柚希に気づき彼にそれを伝えたのだろう。振り返った彼は、弾けたように笑顔を向ける。

「とても素敵だ」

鮮やかに微笑む彼のほうが、ずっと素敵だと柚希は思った。

待っている間に彼も身だしなみを整えていたのだろう。来た時とは違って、フォーマルなスーツに着替え、髪型も少し変わっていた。整髪剤で後ろに流れている髪のせいか、普段よりも大人っぽく見える。

「靴はどう? 痛くない?」

「はい。大丈夫です」

ドレスに合わせて靴を選ぶ時、彼は柚希が履きなれないピンヒールの靴を履くことを心配して、慎重に選んでくれた。その心遣いに応えられるよう、頭の上に本を乗せてこの靴で歩く練習もしたので心配はない。

「それでは仕上げに」

そう言って彼はテーブルの上に置いてあった赤いジュエリーボックスを開ける。

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