麗しの彼は、妻に恋をする
唇に触れるようなキス。

「緊張してる?」

「少しだけ」

「今夜は絶対、僕から離れないようにね」

「はい」

時折頬を撫でながらジッと見つめてくる彼を、ついうっとりと見返しながら、離れろと言われても離れたくないですと心で呟いた。

その胸のときめきが伝わったのか、頬を伝っていた指先がするすると落ちていって、腰に触れた時は思わずゾワリと体が痺れる。

「柚希、きれいだよ」

――今日はなんだか変ですよ?

彼だけじゃない。もっと激しいキスをしてほしいと思ってしまう私も、どうかしているのだろう。

でもそれは、初めて彼の妻として人前へ出る、緊張感のせいかもしれなかった。


到着したパーティ会場には、次々と参加者が集まってきていた。

一歩進むごとに、和葵は声をかけられ、あるいは声をかける。

「もしかして、そちらが噂の奥さまですか」
「ええ、妻の柚希です。柚希、こちらは――」

はじめましてと言い続けながら、亀より遅い一歩を進めて会場の中へと進む。

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