麗しの彼は、妻に恋をする
「あらぁ、和葵さん。この方が奥さまなのね。こんにちは」

会場の中でも同じような挨拶は続く。

そして、ふと気づいた。
集まってくるのは圧倒的に女性が多い。

でも、嫉妬の目を向けられると思いきや、意外なほどそんな様子もない。

ほとんどのマダムや令嬢たちは、朗らかな笑みを浮かべて挨拶をする。金持ち喧嘩せずとは言うが、上流階級の人々は皆穏やかになるのかと、柚希は感心しながら納得したが、そう思ったのは最初のうちだけだった。

同じような挨拶を交わし十分、二十分と過ぎた時には気づいた。

彼女たちは、柚希に全く関心がないのである。

『ねぇ和葵さん、この前の油絵なんだけれどあの作家さんいいわねぇ』
『和葵さん、来週のレセプションパーティなんだけれど』

彼女たちは和葵しか見ていないし、和葵にしか興味がない。

柚希のことなど彼の服装の一部くらいにしか思っていないのだろう。
最初に挨拶をした時こそ、柔和な笑みを向けるが、それ以降は一切、ちらりとも柚希を見ないのだ。

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