麗しの彼は、妻に恋をする
パーティがはじまり、祝辞や挨拶などただ黙って聞いている時間が終わってからも同じことが続いた。

ただ黙って隣にいるのも、それはそれで疲れるものである。

歩く度に和葵の周りには人が集まってくる。結婚のお祝いやら挨拶はするけれど、どこそこの誰々と紹介されても、ちっともわからない。
これがもし、陶芸家の祝賀パーティなら多少なりとも知った人がいるかもしれないが、今回は畑違いだ。和葵を中心とした輪の中で柚希には口を開く機会もないし、話しの内容にもついていけなかった。

そんな自分を、彼が気にかけているのは柚希にもわかった。

時折振り返って優しい視線を向けるし、柚希の腰を抱く手の温もりも優しい。

だからこそ、つまらなくても微笑みを浮かべただ話を聞いているが、いっそ彼から離れて自由になりたいとも思ってしまう。

そうすればこの状況でも、美味しそうなお料理を取りに行って楽しむことができるのにと、こっそりため息をついた時だった。

「夏目と何か食べておいで」

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