麗しの彼は、妻に恋をする
それらの誘いは聞き流していいのか、和葵と一緒に伺うと返すべきなのか。夏目が隣で上手くとりなしてくれたお陰で事なきを得たが、柚希には皆目見当もつかなかった。

覚悟はしていた。
誰に聞かなくても彼がモテることは容易に想像がつくし、女性たちからは厳しい目に晒されるかもしれないと。

今夜はいち参加者に過ぎないとはいえ、冬木和葵の妻が初めて公の場に出るのだ。彼の妻はいったいどんな女性なのかと好奇の目を向けられるだろうとわかっていたし、受け止めるつもりでいた。

彼から経済的援助を受けながら何ひとつ妻らしいことをしていないのである。
注目を浴びるくらいどうということはない。そう言い聞かせていた。

でも自分のまわりに男性が群がるとは。そこまでは想像していない。

夏目が上手く立ち回ってくれることだけが救いだった。

――あー、もう疲れたよぉ。
柚希は夏目の影でそっとため息をつく。


予定時間を少し過ぎて、パーティはお開きとなった。主賓の作家先生はどうやら二次会へと行くらしい。

< 129 / 182 >

この作品をシェア

pagetop