麗しの彼は、妻に恋をする


***


――彼はどうして、あんなに沢山、愛を囁くのだろう?

愛してる。好きだ。
会うたびにキスをして、そんなことを言う。

どうせ半年間の夫婦なのに?
きっと彼は半年後の私のことなんて、全く考えもしないのだ。

そう思いながら頬を膨らませた柚希はムッとして眉をひそめた。

結婚するにあたって、心に誓ったことがある。

――冬木和葵を好きになってはいけない。

お試し期間は半年。彼がいつ離婚を切り出してくるのかわからないという、この結婚は彼の意思に左右される契約結婚だ。

一緒に住んでいるわけでもないし、パーティなどのように妻という立場が必要になった時を除けば、週に一度会うだけの夫婦。その一度さえも、彼に予定が入れば会うことはない。

会ったからといって妻らしい何かをすることもなく、あえて言うならば体を重ねるだけ。それも妻の仕事なのかもしれないけれど……。

最初から割り切っていた。
いや、割り切ろうとしていた。

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