麗しの彼は、妻に恋をする
でもいざ妻になり、彼に抱かれる度に、自分の中のなにかが変わっていくのを止められない。

指先が触れただけで。キスをされただけで、打ち寄せる大波に攫われるように、彼に奪われていくのを止められないのだ。

蕩けるほど甘い声で、彼は囁く。

『柚希、愛してるよ』

――ああ、もう。本当に困ります。



「よかったね、柚希。優しそうだし本当に素敵な人ね、和葵さん」

仏壇に羊羹を一切れのせたお皿を供え、手を合わせた祖母は、そう言って柚希を振り返った。

「え? あ、うん。そうだね」

昼間、和葵が彼の両親と一緒に、柚希の祖母に結婚の挨拶に来たのだった。

心配をかけたくなくて内緒にしていたかったのに、彼はどうしてもちゃんとしたいと言って、しかも彼の両親も一緒にと言われて断りきれなかった。

「どうしたの。玉の輿なのに浮かない顔してぇ」

「だって……」

チラリと瞼をあげて柚希を見た祖母は、クスリと笑う。

「不安なんでしょ」

図星だった。
< 133 / 182 >

この作品をシェア

pagetop