麗しの彼は、妻に恋をする
「はい。失敗したらすっぱりあきらめます」

登り窯に柚希の作品も入れてもらう約束をしていたのだ。
持ってきたのは壺ひとつと花器がふたつ。とはいえ壺と花器のひとつは三十センチを超える大きさなので場所を取る。

柚希が家で使っている窯は、小さなガス窯なので、この壺を焼くとなれば一緒に焼ける物がなくなってしまう。
それで芳生が登り窯を使う時にいつも、いくつかお願いしているのだった。

「すみません。ありがとうございます」

芳生は作品を持ってくれた。

「あ、皆さん集まってますね」

窯の前にある柱と屋根があるだけの四阿(あずまや)では、柚希も良く知る陶芸家や関係者がテーブルを囲んでいる。

登り窯に火を入れることは、ちょっとしたイベントだ。
これから二十四時間以上寝ずの番をして薪をくべることになるので、応援に来ていた。

「お疲れさまでーす」
「お疲れ」

「あ、焼き芋もある」
「どうぞ、まだ熱々で美味しいよ」

テーブルの上には色々な差し入れが並んでいる。焼き芋、おにぎり、お菓子にお煎餅。

柚希が持ってきたのは二パック分のゆで卵。今年は奮発して、チョコレートも持ってきた。
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