麗しの彼は、妻に恋をする
和葵もきっと喜んでくれるに違いない。
そう思いつつ助手席に乗せた桐箱に顔をほころばせながら、柚希は家路を急いだ。

用事が終わってからということは、何時に来るのかわからない。
昨日はお風呂に入っていないので、それまでにシャワーくらいは浴びてさっぱりとしておこうと思った。

家に入って暖房をつけて、そのままシャワーを浴びてようやく一息ついた。

時々微睡んだものの徹夜で寝ていないのだから、疲れていて当然だった。

髪を乾かして、少しだけのつもりで横になった。

だめだよ寝ちゃ、と思うのに瞼が重たくて、コタツの誘惑には勝てない。
ファンヒーターから聞こえるゴーという音さえ、子守唄のように心地よい。

――そういえば……。

前にここに和葵さんが来た時、カメムシを見て大騒ぎしていたっけ。

『うわっ!』

『あ、なんか今年は大量発生みたいなんですよ』

粘土の端切れでペトペトとカメムシを退治している間、和葵さんは大騒ぎしながら、車の中に避難していたっけ。

クスクス。
おもしろかったなぁ。

あんなにちっこい虫が苦手だなんて。クスッ。

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