麗しの彼は、妻に恋をする
彼にはメッセージも送るなと厳命されたので、芳生に聞くこともはばかられた。

こっそりやり取りしても別にいい大人なのだからとも思うが、バレた時のことを想像すると、とてもじゃないが約束を破ることはできない。

芳生からもメッセージが来ないところをみると、彼も怯えているのかもしれなかった。

そんなことを考えて、柚希はぶるぶると身をすくめる。
――怖い怖い。

やれやれとため息をついて、お盆に羊羹が乗ったお皿と置く。

結局、和葵の車で都内に戻り、そのままふたりで祖母の家に来ていた。


居間からは、祖母と和葵の楽しそうな笑い声が聞こえる。

途中で買ったお土産物は祖母の好物であるである栗がたっぷりと入った羊羹。
表面がぬらりと艶めいて、それはそれは美味しそうである。

この栗羊羹と同じくらい、祖母は彼のことを気っている。

薄く切って味見をしてみると、甘いだけじゃなくてほんのりと感じる塩気が美味しさを引きたてる。

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