麗しの彼は、妻に恋をする
それは最近の彼のお気に入りの洋楽で、ポップなラブソング。
どうやら、ようやく完全にご機嫌は治ったらしい。

彼の瞳は普段通りの温かさを取り戻しているようだった。

となると、沸々と怒りが込みあげなくもない。

本当に怖かったのだから。

「柚希、今夜はなにが食べたい?」

――なによ。何もなかったような顔をしちゃって。
あんなに怖かったくせにぃ。
だったら私だって、ちょっと好きにさせてもらうもんね。

「今夜は私が作ります」

「え?」

「いいですか?」

彼は肩をすくめる。
「もちろん」

それからふたりで買い物に行って、柚希は早速夕食を作り始めた。

「何を作るの?」

「家庭料理っていうやつですよ」

「ふぅん」

十一月といえばメニューは決まっている。
けんちん汁だ。

里芋は塩でぬめりを取って、コンニャクは下茹でをして、油揚げは油抜きをして、ゴボウは水に晒して。
豆腐は水を切っておき、大根と人参と椎茸と、トントントン。
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