麗しの彼は、妻に恋をする
祖母直伝の味の決めては最初に胡麻油でよく炒めること。水とお出汁で煮込んで途中でアクをとり、ああいい香り。

自分だけならけんちん汁だけで十分だけれど、さすがにこれだけでは気の毒なので、焼き魚は鮭の西京漬け、付け合せにほうれん草の胡麻和えもサービスする。

「さあ、召し上がれ」

「あ、けんちん汁だ」

「そうですよ。よくご存知で」

彼のお腹はフレンチのフルコースとか料亭のすき焼きとかを期待していだろう。
こんな家庭料理ではなかったに違いない。

でも、お世辞なのか気を使ってくれたのか、彼は美味しいと言って早々に平らげた。
けんちん汁はおかわりもしたりして。

突然怒られたショックの仕返しのつもりだったのに、彼は後片付けも手伝って何故だかご機嫌である。

「ねぇ柚希、たまには作って。今日みたいなご飯」

「いいですけど」

でもこれでは、仕返しのつもりなのに全然仕返しにもならない。

――まぁ、でもいいか。

こんなに喜んでくれるなら。
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