麗しの彼は、妻に恋をする
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数日後。
夏目と和葵は、芳生から柚希の作品を受け取りに行った。
芳生は夏目が渡した菓子折りを型どおりに受け取ったが――。
「怪訝そうでしたね」
「柚希も来ると思ったんだろう」
和葵にしては珍しく、不機嫌さを隠そうともせずそう言い捨てた。
約束の月曜でもないのに、彼女が彼に部屋に来ていたのは数日前のこと。
どうやら何かがあったらしいとわかったのは、彼女が益子に帰るのを駅まで送り見送った時だった。
「どうして益子に帰るんだ」
にこにこと笑顔で見送ったというのに、彼女が見えなくなった途端に彼は眉をひそめる。
「え? もしかして嫌なんですか?」
「嫌じゃない理由があるなら、教えて欲しいね」
ムッとしたまま、彼はそう答えた。
「柚希さんにそう言ったんですか?」
「言わないよ。柚希はあの自然の中で陶芸のことだけを考える時間をこよなく愛しているんだ。それを取り上げることなんて、できるわけないじゃないか」
――ん?
「なにかありました?」