麗しの彼は、妻に恋をする
それには答えず、彼は唐突に「高崎芳生は嫌いだ」と言い出した。

高崎芳生は陶苑としても注目の若手作家だ。
つい最近も銀座の百貨店での個展を成功させている。

彼がまだ無名だった頃、冬木陶苑では注目の若手作家グループ展のひとりとして何度か扱っている。
そんなこともあり彼は冬木に対して恩を感じているし、順調にいけば、いずれは彼の個展をすることになるだろう。

和葵も彼のことは気になっていたはずだが、この前、カフェで柚希と高崎芳生の二人がいるところを見かけて以来、天敵になったらしい。

「柚希さんの壺、なかなかいい出来でしたね」

「うん。あれはいいね。花器もよかった」

「登り窯は大変ですからね」

またしても彼は答えない。

登り窯は火の管理が難しい。金もかかる。
高崎芳生は師匠からあの窯を受け継いでいるが、あのクラスの窯を一から作るとしたら一千万はかかるだろう。
一度焼く度に薪代だけで数百万。経済的な問題は解決できたとしても、寝ずの番をしながら炎を見極める熟練の技が必要だ。

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