麗しの彼は、妻に恋をする
彼女が一から勉強したとしても登り窯を扱うのは難しい。というか無理だろう。

「もっと大きいガス窯を買ってあげようかな。壺が焼けるくらいの」

「それは喜んでくれるでしょうね。うれしくてさぞかし作陶に気合が入るでしょうけど」
そう言うと彼はますます憮然して、ついに黙り込んだ。

「彼女が気に入ってくれそうな家を探しておきますか？　窯を置けるのを条件に」

「そうだよ。都内だって田舎風は作れるよね？　地面が砂利と土だったら目隠しして連れてくれば気づかないかも？」

「そういうことじゃないと思いますけど」

「いいんだよ、なんだって柚希が気に入れば。すぐ探して」

やれやれとため息をつきながら夏目は、思わず笑った。

彼は妻に恋をしている。

みんなの和葵さんである彼は、女性に対してまんべんなく優しい反面、心は許さない。
有耶無耶にすることもないし、必要以上に期待をさせるようなことはしない。

それはいずれに娶るであろう妻に対しても同じだろうと思っていた。
< 153 / 182 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop