麗しの彼は、妻に恋をする
彼の元に行くための準備が、こんな形で役立つとは。それもこれも全てが運命なのだろう。


その夜、柚希は隣町の小さなビジネスホテルにいた。
万が一にも不意に和葵が家に来たら、涙を隠さずにいられない。

引っ越し先は、芳生が陶芸家の伝手を辿って探してくれるという。

以前、芳生には『あの人はお前の手に負えるような人ではないぞ』と釘をさされていたが、今回彼は何も言わなかった。

『大丈夫か?』と、言っただけ。

『事情は後で聞く。とにかく一旦ここを出て落ち着いて考えてみたらどうだ?』

そのアドバイスに従って、とりあえずの荷物を持ちここに来た。

この場所も芳生には教えていない。
軽トラックであてもなく走りながら決めたホテルだった。

あとは引っ越し先が決まったら、荷造りを手伝ってくれると言う約束になっている。

心あたりが数か所あると言っていたので、もしかすると明日にでも引っ越しできるかもしれない。

「あーあ」
ベッドの中で手を伸ばした。

くすみがかった白い天井に向かって呟いた。

「いい夢だったなぁ」

白馬の王子さまとの楽しい生活。
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