麗しの彼は、妻に恋をする
『お、お願いです。私のパトロンになってくださいっ』
そう言ったあと、気を失ってしまったのだ。
「ちゃんと食事してないでしょ? その点滴はビタミン剤。それが終われば元気になるから心配ないよ」
「す、すみません……」
「どう? 具合は」
「はい、大丈夫です。あ、あの、ここは?」
「ベリーヒルズのレジデンスにある僕の家の、ここは客室。ちょうど知人の医者が通りかかったところだったし、君のお腹が、体調を教えてくれたんでね」
――えっ? ぐうぐう鳴ったっていうこと?
恥ずかしさと情けなさで、柚希はがっくりと項垂れた。
「すみません。本当に、すみません」
「いいよ。それで? 話を聞かせてくれる?」
「えっ?」
「パトロンがどうとかって」
――あ! どうしよう。
ここで誤魔化せば、発言はなかったことにできるだろう。
でもそれでは、さっきの発言はなんだったのかということになるし、いまを逃せば今後二度とこんな機会は訪れないに違いない。