麗しの彼は、妻に恋をする
どうせ、食うに困る困窮ぶりも知られてしまったのだ。
開き直った気持ちで柚希は正直に打ち明けることにした。今更取り繕ったところで、どうにもならないのだから。

「私の、パトロンに、なっていただけないかと、思ったもので……」

「僕に?」

頷いてそっと彼を見ると、彼はジッと柚希を見ていた。

ゆったりと足を組み、上半身をほんの少し傾けて、肘掛けに掛けた右手の先をこめかみにあてている。

きっちりと首元に収まっているネクタイ。柚希の服のように粘土がついているどころか、糸くず一本、シワひとつなさそうな濃紺のスーツ。ピカピカの腕時計。

まるで、ファッション雑誌のワンシーンを生で見ているようだ。


もしかして自分は、とんでもないことをしているのではないだろうか?
いやいやもしかしなくても……。

「――あ、いえ、あの。も、もし、わ、私の器を、き、気にいっていただけたら、うれしいなぁ……と思っただけで、その」
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