麗しの彼は、妻に恋をする
冬木陶苑に並んでいた器。
あんなふうにスポットライトを浴びて並ぶような作品を作り出せてはじめて、この人にパトロンをなんて言えるのだ。
――ああ、なんてこと。
血糖値が低すぎてまともな判断ができなかったに違いない。
身の程しらずとにも程がある。
「すみません! わ、わすれ」
と、勢いよくそこまで言った時。
彼がスッと立ち上がりベッドに腰を下ろした。
――え?
それはあまりに突然で、
今起きていることが、口づけであることに気づくまで、どれくらいの時が流れたのだろう?
息ができなくて、
気が遠くなりかけた時、唇がゆっくりと離れていった。
ぜえぜえと息を整えていると、彼はクスクス笑いながら、柚希の背中をさすり囁いた。
「キス初めてだった?」
「――は、はい」
「そう。じゃあファーストキスに免じて、結婚だったらいいよ? パトロンは無理だけど」
――へ?
「あ、点滴が終わったみたいだね。看護師を呼んでくる」
ポツンとひとり部屋に残った柚希は、確認するように呟いてみた。
「結婚? ――パトロンは無理だけど、結婚……」