麗しの彼は、妻に恋をする
マルちゃんがインターネットで検索をした時、冬木と名のつく画廊や私設美術館も出てきた。
陶苑だけじゃなくて、他にも色々な事業を展開しているのかもしれなかった。

――本当にお金持ちなんだなぁ。

その豪華なリビングの、窓際のソファーに座っている彼は、広げていた雑誌から顔を上げた。

看護師さんの姿はない。既に帰ったのかもしれなかった。

「ああ、顔色も良くなったね」

「本当にありがとうございました。あ、あの、バスローブは洗ってからお返しさせて頂きます」
何度目かのお礼を言いながら、精一杯丁寧に頭を下げた。

「大丈夫、気にしないで。そのままでいいよ」

実際持ち帰ったところで、どうしたらあんなにフワフワに出来るのかよくわからない。
またしても礼を言いながら、そっとバスローブをソファーに置いた。

それにしても、あまりに悠然としている彼の様子になんだか不安になってくる。

――さっきの発言は、その場限りの冗談ってこと?

本当にファーストキスだったのに。

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