麗しの彼は、妻に恋をする
――えっ、本当ですか?
やったーと思いながら、ふと気づいた。

いつの間にか彼はすぐ隣に座っている。

「それで、どうする? 結婚」

驚きのあまり「へっ?」とおかしな声が出た。

彼はニコニコと微笑んでいる。

――冗談じゃなかったの?

「あのぉ。それは……。えっと。な、なぜ結婚を?」

「うん。パトロンはね、僕の立場上ちょっと難しい。でも僕と結婚すれば、君は経済的にも困らないで好きなだけ作陶に没頭できる。まぁ別に、愛人でもいいけどね」

「愛人?」

――結婚か愛人?

またしても驚くべき単語が出てきた。

結婚でも愛人でもいいとはどういうことだろう?

「君は結婚と愛人、どっちがいい? それともこの話は無しってことにする?」

どちらか――。

結婚なんて恐れ多いし。となると。

「あ、愛人?」

「そう。それで? 君からは、なにか条件ある?」

「い、衣食住の心配なく、作陶さえ続けられれば、私はなにも……」

「わかった」

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