麗しの彼は、妻に恋をする
「勘違いしちゃだめよ、愛人じゃないからね。
　あくまでも才能に対して援助してもらうってこと。
　パトロンを見つけて、食パンを牛乳で流し込むだけの生活からの脱却よ。わかった？」

「はい。わかりました」

――私の食生活をよく御存じで。

食パンに牛乳ならまだいいほうだ。
さすがにカビがはえたものは食べないが、パン屋さんでペット用にと売っているカペカペの食パンの耳に水なんてこともある。
というか、結構ある。

「じゃ、時々様子を見に来るからがんばってね」

柚希は慌ててペコリと頭を下げて、華子さんを見送った。

――パトロンか。

桜井柚希(さくらい　ゆずき)二十七歳、独身。
売れない若手陶芸家。
パトロンを見つければ、パンの耳に頼らない生活ができるのだろうかと、本気で考えた。

「そう言われても、どうしたら見つけることができるんでしょうねぇ」

代弁するような声に振り返れば、この店の店員マルちゃんがいた。

「オーナーの決まり文句なんですよ。パトロンを探せ。
　ここで個展を開く作家さんには必ず言ってるんですけど、皆さん言うんです。どこにいるだろうパトロンって、ってね。
　それじゃあ、一週間よろしくお願いします」

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