麗しの彼は、妻に恋をする
「仙人って。あはは。でも本当にそう」

「寂しくないんですか? そういう生活で」

「うん。もともとひとりが好きだしね」

寂しくないというのは、嘘じゃない。

粘土をこねて、無心でろくろを回していると時間なんてあっという間に過ぎる。
時々納品に行って人と会うくらいで十分だ。

人間に会わなくても近所で飼われている猫が遊びに来るし、タヌキも顔を出す。
鳥は毎日庭木の実を食べに来るし、生き物が周りにいれば意外と寂しくはないものなのである。

祖母が都内の下町に住んでいるから、粘土が固まってしまう冬の間は祖母の家で過ごしたりするけれど、都会はどうも肌に合わないと、柚希は思っている。
濁った空気もごみごみした雰囲気も、ちょっと苦手だ。

見える将来がたとえ孤独死だとしても、それに対する恐怖みたいなものは不思議となかった。
三途の川を渡った向こうの世界には、母もいる。

結局、孤独が好きなのだろう。

空気のいい田舎で好きな陶芸ができて、ひとりで生きていけるだけのお金があれば、それはもう天国。



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