麗しの彼は、妻に恋をする
祖母の友人たちも、連れ立って個展に来てくれたのだ。本当に有り難いことである。

「明日なんだけど、終わったら一旦そのまま帰るね。また出直してくる」

「あらそう」

「引き続きネックレスを置いてもらえることになったから、うちにある分を持って来ようかなと思ってね」
祖母はニコニコとうれしそうに微笑んだ。

本当は祖母とふたり、ここで暮らせたらいいのだろうと思う。

でもここには陶器を焼く窯を置けないし、自由に作陶ができない。

益子に呼ぼうにも、祖母にはここでの楽しい暮らしがある。以前ちらりと聞いてみたら、友達もいないそんな不便なところは嫌だとはっきり断られた。


「ねぇお祖母ちゃん。明日オーナーさんとかお世話になった人に菓子折りとか渡そうと思うんだけど、どこかいいところない?」

「ああ、それなら、その先の和菓子屋さんが美味しいよ」

明日菓子折りを買ってから店に行き、夕方店を出て冬木陶苑にお礼の挨拶をしてそのまま電車に乗れば、なんとか明日のうちに家に辿り着けるだろう。

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