麗しの彼は、妻に恋をする
「ご苦労さま。一週間疲れただろう?」

「ううん、大丈夫。あ、でもやっぱり都会は疲れるー」

「ここで育ったのに、まったくすっかり田舎暮らしに慣れちゃって」

「あはは」

考えてみれば、益子暮らしはまだ四年くらいだ。

でもいま自分の家といえば、ここではなく田舎の小さな家を思い浮かべる。

早く帰りたいと思いながら、その日は早々に柚希は寝床についた。

――もし明日冬木陶苑に行けなければ、ネックレスを届けに来た時に行けばいいかな。

明日の最終日は兄弟子の芳生(よしお)が来てくれると連絡があった。
芳生はいつも最終日近くに来て、残ったものを何か買っていってくれる優しい先輩である。

昼頃に来る時はランチをご馳走してくれるし、夕方の場合は片づけを手伝って夕食をご馳走してくれる。

いつも申し訳ないなとは思うが、芳生は自分と違って沢山のパトロンがいる売れっ子作家なのだ。経済的に余裕があると知っているので、つい甘えてしまうだった。

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