麗しの彼は、妻に恋をする
雑貨店には事情を話し夕方に顔を出すということにして、芳生にはほぼ完売なので心配はいらないということと、急用ができたので店にはいけないとメッセージを送り、柚希は入院の手続きやら準備やらに走り回った。

「ありがとうね、柚希」

病室のベッドサイドでホッと一息ついた時には、既に太陽が西に傾いていた。

「いいんだよ、そんなこと。明日また来るからね」

「でも無理しないでいいからね」

「私の心配なんてしなくて大丈夫だよ」

祖母の友人たちも駆けつけてくれたので、病院を出たその足で、柚希は雑貨店に顔を出した。

心配してくれたオーナーは、何かと入り用だろうと、その場ですぐ今回の個展の清算をしてくれた。

売上は一週間で約十五万円。
小さなスペースだったことを思えば、その金額は決して悪くはない。それだけの売り上げを出せたことはむしろ万歳をしたいくらいだ。

でもいまは、そう喜んでもいられない。

『入院に必要な物はここから出してね
そう言って、祖母から渡されたキャッシュカードと通帳。

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